資料1 障害者雇用の「質」について・いわゆる「障害者雇用ビジネス」への対応について(第141回労働政策審議会障害者雇用分科会)
- 発行
- 厚生労働省 職業安定局
- 年
- 2026年8月31日(分科会開催は2026年8月28日)
- 概要
- 障害者雇用ビジネスの実態把握の推移、業界団体加盟企業へのアンケート結果、定義規定・法規制の在り方、ガイドラインの具体的イメージなどを整理した事務局説明資料。衆参両院の附帯決議(2022年11月18日・12月8日)の全文も掲載。
「障害者雇用代行ビジネス」(いわゆる農園型雇用等)は、企業が法定雇用率の達成のために、代行業者が用意した農園やサテライトオフィスで障害者を雇用する仕組みです。
厚生労働省の研究会は、大部分の事例について「明らかな法令違反ではない」としており、制度上ただちに違法とされているわけではありません。一方で、雇用が企業本体の業務から切り離され、戦力化やキャリア形成、「共に働く」職場づくりにつながりにくいなどの理由から問題視されています。
この仕組みで働く障害者数は、厚生労働省の実態把握で2023年3月末の約6,600人から2025年10月末には約11,100人に増加しており、労働政策審議会障害者雇用分科会で制度的な対応が議論されています。
本ページは、厚生労働省・労働政策審議会障害者雇用分科会等の公的資料と報道に基づき、2026年9月8日時点で確認できた内容を整理したものです。関連する法改正・ガイドライン策定の議論は継続中であり、2026年9月時点で確定した制度変更の内容は示されていません。最新の状況は、末尾の出典(原本)でご確認ください。
「障害者雇用代行ビジネス」は法令上の用語ではなく、厚生労働省が実態把握の中で用いている呼び方です。2022年11月18日の衆議院厚生労働委員会の附帯決議は、これを「事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障害者雇用代行ビジネス」と表現しています(参議院厚生労働委員会も同年12月8日に同趣旨の附帯決議を行っています)。
典型的な形では、①障害者を雇用したい企業(利用企業)、②農園やサテライトオフィスなどの場所・設備を用意し障害者の採用や日常の雇用管理を支援する事業者(障害者雇用ビジネス事業者)、③そこで働く障害者、という三者で構成されます。雇用契約自体は利用企業と障害者の間で結ばれますが、出退勤の管理や業務指示、成果物の活用方法などは、事業者が用意した仕組みに沿って行われることが多いとされています。
厚生労働省が都道府県労働局を通じて把握した事例では、屋外・屋内の農園で野菜を栽培し、収穫物を利用企業の社員食堂で提供したり、こども食堂へ寄付したりする例のほか、サテライトオフィスでPCスキル研修や利用企業から切り出した軽作業に従事する例、事業者が利用企業に障害者雇用の進め方を助言するコンサルティング形態などが確認されています。近年は環境保全事業や飲料品の製造を行う事例も見られ、業態は多様化しています。
厚生労働省が都道府県労働局等の事業所訪問や事業者のホームページなどを通じて把握できた範囲では、2025年10月末時点で、事業者46、就業場所221か所(うち農園153か所、サテライトオフィス56か所、その他12か所)、社名を把握した利用企業363社(就業場所ごとの利用企業数を合計した延べ数は1,802以上)、就業障害者数11,141人以上となっています。労働政策審議会障害者雇用分科会で初めて状況が報告された2023年4月以降の推移は、次のとおりいずれも一貫して増加しています。
厚生労働省は、この事業について「事前の届出等があるものではなく」、上記の数値は「都道府県労働局等が実施する事業所訪問等による事業主の任意の協力等により把握できた限りの情報」であり、実数はこれを上回る可能性が高いと注記しています。
なお、業界団体である一般社団法人日本障害者雇用促進事業者協会が2026年4〜5月に加盟24社へ実施した任意アンケートでは、回答企業の合計で就業障害者11,612人という数値が示されています。これは調査の主体・対象・時点が異なる別の集計であり、上記の労働局による実態把握の数値(46事業者・11,141人以上)とは単純に比較できない点にご留意ください。
「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」報告書(2026年2月6日公表)や、労働政策審議会障害者雇用分科会の事務局資料(2026年8月31日付)は、障害者雇用ビジネスをめぐる課題として、次のような論点を挙げています。それぞれ「何が起きているか」→「なぜ問題か」の順に整理します。
何が起きているか:利用企業の本業と障害者が従事する業務の関わりが薄く、就業場所も他の従業員と異なることが多くなっています。雇用契約は利用企業と結ばれますが、利用企業側の日常的な接点は薄くなりがちです。
なぜ問題か:研究会報告書は、こうした状態では利用企業側の主体的な関与が下がって雇用責任が希薄化し、障害者の習熟に応じた職務内容のレベルアップやキャリア形成が図られにくいと指摘しています。
何が起きているか:付与される業務が固定化しやすく、成果物が廃棄されたり、重要性の高くない頒布にとどまったりする例が把握されています。
なぜ問題か:研究会報告書は、こうした状態は法定雇用率の達成のみを目的とした雇用になりやすく、十分な業務付与がないまま賃金が支払われる構造になることで、働く障害者自身の意欲の減退・喪失にもつながると指摘しています。
何が起きているか:業務内容・就業場所が利用企業の他の従業員と分離していることが多くなっています。
なぜ問題か:研究会報告書は、これにより「障害の有無にかかわらず共に働く」という障害者雇用促進法の理念から離れ、利用企業側(経営層・従業員等)の障害理解も深まっていかないとしています。
何が起きているか:労働政策審議会の事務局資料(第141回、2026年8月31日付)は、障害者の能力発揮の成果が利用企業の事業に有為に活用されない場合、障害者雇用が一方的コストであるという認識に陥りやすいと分析しています。
なぜ問題か:同資料は、こうした状態は「雇用関係」の本質(労務提供の対価として賃金を支払う契約関係)に照らして持続可能性が低くなるとしています。関係団体からのヒアリングでも、この仕組みで働く障害者は1万人を超えており、縮小に向けた急激な措置は負の影響も大きいと見込まれる旨や、雇用継続を前提とした「仕組みの残し方」自体が論点になっている旨の意見が出されています。
何が起きているか:障害者雇用ビジネスは事前の届出等がある事業ではなく、行政も都道府県労働局等の任意の協力に基づく限られた情報しか把握できていません。また、現行の障害者雇用状況報告(6.1報告)には、利用企業が障害者雇用ビジネスを使っているかどうかを報告させる項目がありません。
なぜ問題か:関係団体ヒアリングでは、特例子会社の雇用人数を区分して報告している仕組みと同様に、障害者雇用ビジネスの利用状況も区分して把握できるようにすべきだとの意見が出ています。現状では、代行ビジネスを利用して雇用率を満たす企業と、自社の職場で障害者雇用に取り組む企業とが、実雇用率の集計上は区別されず、行政による実態把握・指導監督が行き届きにくい状態にあります。このため労働政策審議会では、利用企業に一定の報告を義務付ける方向で検討が進められています。
都道府県労働局が実際に把握した事例としては、障害者雇用ビジネス事業者が提供する場所やサービスに基づいて業務が決まるため利用企業が業務の切り出しを検討しなくてよい例、「無期転換ルールの適用へのリスクがない」ことを利用企業向けの営業文句にしている例、事業者が運営する就業場所の営業日や送迎バスの運行時間に利用企業側の労働時間を合わせている例、複数の利用企業の労働者が就業場所で区分なく混在し日ごとに作業を分担している例などが報告されています。
研究会報告書は、こうした課題は障害者雇用ビジネスを利用しない一般の障害者雇用でも生じ得るとしたうえで、企業側の利用ニーズが中長期的に続くと見込まれることや、「障害者雇用=コスト」という認識・構造が強まることが、日本の障害者雇用の進展にとって負の影響をもたらしかねないと指摘しています。
研究会報告書は、大部分の障害者雇用ビジネスについて「明らかな法令違反ではない中で、憲法上保障される経済活動の自由に対し、『公共の福祉に反する』ことを理由とした『禁止』…を行うことは、法制上の課題がある」としています。つまり、現行の障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法、昭和35年法律第123号)の下では、多くの場合、直ちに違法とはされていません。障害者雇用ビジネスを通じて雇用される障害者も、利用企業との雇用契約に基づき、法定雇用率の算定(実雇用率のカウント)の対象に含まれます。
法定雇用率は、2023年度を起点に2段階で引き上げられ、2026年7月1日から現行の率が適用されています(2026年9月時点で施行済み)。対象となる事業主の範囲(常用労働者数)も、引き上げに合わせて拡大されています。
| 区分 | 2023年度 | 2024年4月〜 | 2026年7月〜(現行) |
|---|---|---|---|
| 民間企業の法定雇用率 | 2.3% | 2.5% | 2.7% |
| 対象事業主の範囲(常用労働者数) | 43.5人以上 | 40.0人以上 | 37.5人以上 |
| 国・地方公共団体等の法定雇用率 | 2.6% | 2.8% | 3.0% |
| 都道府県等の教育委員会の法定雇用率 | 2.5% | 2.7% | 2.9% |
国・地方公共団体等および都道府県等の教育委員会の法定雇用率は、障害者の雇用の促進等に関する法律施行令(昭和35年政令第292号)第2条に定められています。同条は、令和5年政令第44号による改正後(2023年4月1日施行)の条文で「国及び地方公共団体等は百分の二・六とし、都道府県に置かれる教育委員会その他厚生労働大臣の指定する教育委員会は百分の二・五とする」と規定しており、2023年度の値(2.6%・2.5%)はこの政令に明記された数値です。その後、令和5年政令第239号(2023年7月7日公布)の経過措置により2024年4月〜2026年6月は2.8%・2.7%、同令の本則により2026年7月以降は3.0%・2.9%と定められています(労働政策審議会障害者雇用分科会・第123回資料1-1〔2023年1月18日〕は、最終値〔3.0%・2.9%〕と「段階的な引上げに係る対応は民間事業主と同様とする」という方針を示しています)。あわせて、建設業や医療業など除外率が設定されている業種の除外率も、2025年4月1日から一律10ポイント引き下げられました。研究会報告書は、こうした急な引き上げによって「法定雇用率を達成するために求められる現実的なハードル(職務の選定・開拓、募集・採用、合理的配慮の実施、育成等)を乗り越えることが容易でないことによって、企業にとっての利用ニーズが増大している」と分析しています。
常用労働者数が100人を超える事業主で法定雇用率を達成していない場合、不足する障害者数に応じて障害者雇用納付金(1人当たり月額50,000円)を納付する義務があります。法定雇用率を超えて雇用している場合は、障害者雇用調整金(1人当たり月額29,000円。支給対象が年120人を超える部分は23,000円)が支給されます。常用労働者数が100人以下の事業主は納付金の対象外ですが、一定数を超えて雇用している場合は報奨金(1人当たり月額21,000円。支給対象が年420人を超える部分は16,000円)の支給対象となります。
常用労働者数100人以下の事業主への納付金の適用拡大は、労働政策審議会でなお検討中の論点であり、2026年9月時点で制度化されていません。
2025年12月19日公表の「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」(2025年6月1日現在)によれば、民間企業の実雇用率は2.41%、法定雇用率(2.5%)達成企業の割合は46.0%となっています。段階的な引き上げの中で多くの企業が達成に努める一方、達成のハードルの高さが、障害者雇用ビジネスの利用が広がった背景の一つとされています。
厚生労働省・労働政策審議会障害者雇用分科会における経緯は、確認できた範囲で次のとおりです。
2026年9月8日時点で、法改正の内容は確定していません。分科会でこれまでに示されている検討の方向性としては、(1)障害者雇用状況報告(6.1報告)において、障害者雇用ビジネスを利用する利用企業に、事業者情報・就業場所・業務内容・利用予定期間等の報告を求める、(2)障害者雇用ビジネス事業者に事業開始の届出等を求めたうえで、告示で定めるガイドラインに即した支援の実施に努める旨を法律に規定する、(3)利用企業向けのガイドラインの中で、障害者雇用ビジネスの利用に際して望ましい在り方(成果物の有為な活用、自社事業所への移行の検討等)を示す、といった案が事務局から提示されています。ただし、対象となる「障害者雇用ビジネス」の定義・範囲、利用企業名を公表するかどうか、ガイドラインの法的性質等については、業界団体・支援団体の間でも意見が分かれており、なお検討が続けられています。
障害者雇用ビジネスを利用する場合も、雇用管理の主体はあくまで利用企業自身であり、合理的配慮の義務も利用企業にあります。研究会の議論では、障害者の就業を通じた成果物が自社の事業活動に有為に活用されているかどうかの検証、一定期間の利用後に自社の事業所での障害者雇用へ移行させていく見通し、利用する事業者がガイドラインに沿った運営(支援メニューの提供状況等の情報開示)を行っているかどうかの確認が、望ましい取組として挙げられています。
関係者ヒアリングでは、障害者本人の希望や特性を踏まえた就業場所・業務内容の選択肢を確認すること、合理的配慮の実施に際して障害者・雇用主(利用企業)・障害者雇用ビジネス事業者の三者で定期的にコミュニケーションを図ることの必要性が指摘されています。
障害者雇用状況報告(6.1報告)の報告事項の見直しや、ガイドラインの策定・法制化の可否は、労働政策審議会障害者雇用分科会で今後も議論が続く見込みです。確定した制度変更の内容は、厚生労働省の公式発表・告示で確認する必要があります。
名称・発行元・年・URLは、いずれも発行機関の公式ページまたは公式PDFで確認したものです(確認日:2026年9月8日)。報道は、複数の一次資料に基づく報道機関の記事として参考掲載しています。